きのこ生産者に聞いたマッシュルームの栽培方法と必要設備
2025/08/20
コラム

世界で最も広く生産されているきのこの一つ、マッシュルーム。
料理との相性も抜群で、食卓から高級レストランまで、さまざまな場面で活躍しています。その一方で、マッシュルームはとてもデリケートな品種。きのこの中でも特に栽培が難しく、繊細な管理が求められます。
今回は、30年以上マッシュルームを栽培している千葉県旭市の有限会社渡辺マッシュルームハウスの渡辺さんに栽培方法と設備について伺いました。
マッシュルームの種類と栽培方法
マッシュルームの種類

マッシュルームには大きく分けてホワイトマッシュルームとブラウンマッシュルームの2種類があります。渡辺さんが所属する生産組合の主な出荷先はホワイトマッシュルームを主流とするスーパーです。そのため渡辺さんのハウスではホワイトマッシュルームをメインに栽培していますが、その傍ら少量のブラウンマッシュルームも栽培し、レストランや飲食店、道の駅で直売しています。
ホワイトマッシュルームとブラウンマッシュルームは管理温度などが若干異なるものの、栽培方法に大きな違いはないそうです。
栽培方法
栽培工程:堆肥作り(発酵1)(発酵2)→植菌→培養→発生→収穫
マッシュルーム栽培ならではの栽培工程は、“堆肥を作る”ことです。きのこは堆肥の養分で成長するため、よい堆肥を作ることが収穫量の増加につながります。
ここからは渡辺マッシュルーム様の栽培方法をご紹介します。
●堆肥作り(一次発酵と二次発酵)

一次発酵:一次発酵は屋外で行います。敷き詰めたワラに石炭窒素と尿素を散布して発熱・発酵を促し、上からワラを敷き詰めます。これを5回ほど繰り返し、層を作っていきます。
最後は上から遮光ネットなど、通気性のあるもので蓋をして発酵させます。発酵を均一にするために、途中で数回切り返しを行います。堆肥に生存する病原菌や害虫を殺菌除去し、堆肥の均一な熟成を図ります。
二次発酵:一次発酵した堆肥を栽培ベッドに(20〜25cm位になるよう均等に)敷き詰め、60℃で約6時間殺菌します。その後、堆肥の温度を45℃〜55℃まで下げて余分なアンモニアを放出させ、堆肥を熟成します。二次発酵は10日程かかります。
◆なぜ堆肥作りが重要なのか?
二次発酵へ移行する際、高温状態の藁を再発酵(酸素を取り込む好気性発酵)させ、微生物を活発に動かすことで、優良なカビを作り出します。
マッシュルームはこの“優良なカビ”をエサにするため、微生物が育たないと植菌してもきのこが発生しません。そのため堆肥作りは重要なのです。
●植菌の方法

栽培ベッドの上に種菌を撒き、ロータリーで混ぜながら土を平らにします。
●栽培サイクル

渡辺マッシュルームハウス様は4週間で4回(1週間1サイクル)の周年栽培です。
現在11棟のハウスでマッシュルームを栽培していますが、1週間ごとにローテーションをさせて、常に4部屋は“きのこが収穫できる状態”にしています。1週間に1回作業ができ、安定した収量が確保できるため、“栽培体系的には一番管理がしやすい規模”とのことです。
●収穫

収穫は、S~Lサイズの規格を目安に収穫しています。収穫はパート従業員を含めた15人で作業を行い、渡辺さんを含めた男性3人は栽培管理を担当しています。
年間収穫量は約150トンです。
【施設情報】

11棟の内訳:
1棟あたり8棚ベッド(40坪/約132平米)×8棟
1棟あたり8棚ベッド(50坪/約165平米)×3棟
マッシュルーム栽培で重要な環境管理

堆肥作りの次に重要なのが栽培環境の管理です。堆肥に栄養がたくさん含まれていても、温度や湿度、CO₂などの栽培環境をきちんと管理しないと、病気が発生したり、マッシュルームが奇形になることがあります。
そのため環境管理は重要です。
管理温度・湿度
温度:培養時/20~22℃、発生~収穫時/17~18℃
湿度:80~90%
※湿度を上げすぎると病気が発生したり、きのこの発生量が減少する可能性があります
導入設備
温度調節器、湿度調節器、CO₂コントローラ、加湿装置を導入しています。
加湿装置は真冬(湿度が低いとき)だけ使用しています。2流体ノズルを使用した設備を採用。空気で水を飛ばし、細かい霧状にして気化させています。
※2流体ノズルとは、主に空気と水2つの流体を噴射するノズルのこと
●除湿と加湿に湿度コントローラ

加湿器は冬場しか使わないため、必須の設備ではありません。導入していない農家もいらっしゃいます。
しかし、除湿は重要なため湿度コントローラ(除湿コントローラ)は必須です。
渡辺マッシュルーム様ではニッポーのHCシリーズを採用されています。HCシリーズは加湿と除湿の切り替えができるため、一台二役で重宝されています。
除湿はエアコンの動作と同じ原理で、最初に温度を低くして湿度を取り、次に温度を上げて空気を整えます。
※外気を取り込むとCO₂濃度が変動してしまうため除湿のための換気は行いません
●換気にCO₂濃度コントローラ

きのこ栽培においてCO₂濃度のコントロールは重要です。濃度が高くなるとマッシュルームのカサが開きやすくなったり収量が減ってしまいます。
CO₂濃度が高くなったら換気をして濃度を下げます。発生期間は2,000ppm以上にならないように、500~2000ppmの間で管理します。
マッシュルームの廃堆肥を活用した循環型農業

藁とピートモスが含まれた廃堆肥は、熟成しているため有機肥料として有能です。
「マッシュルーム堆肥を使いたい」と言ってくださる近隣の農家たちに、無料で配っています。廃堆肥はそのままの状態では使用できません。堆肥として畑に還元するために、廃堆肥をスチームボイラーで熱消毒し、マッシュルームの菌や雑菌を一昼夜かけて殺菌します。
農家のみなさんは「いい堆肥だ」と喜んでいただいているそうす。
株式会社ニッポーでは、湿度調節器、超音波加湿器、CO₂濃度コントローラなど、きのこ栽培に適した環境を作るための機器を開発・製造・販売しています。
必要な設備・機器のことまでトータル的にシステムを提案させていただきますので、お気軽にご相談ください。
有限会社渡辺マッシュルームハウス
代表取締役社長 渡辺 俊之様