炭酸ガスをムダなく施用するために。ハウスで実践するべき対策まとめ

2023/10/31

農業用コントローラ

炭酸ガス発生装置を導入してもなかなか成果が出ないという方はいませんか?この記事では炭酸ガスの効果的な施用方法と見直すべきポイントについてお話しします。

炭酸ガスの濃度ムラの原因は設置の方法

筆者が訪問した東日本の産地では、ハウス内に直接炭酸ガス(CO₂)を噴き出す方法で発生装置を設置している例が多く見られます。[図1]


▲[図1]炭酸ガスの直噴施用



以前、「密閉空間の中では炭酸ガスの濃度差によって炭酸ガス発生装置からハウスの端まで高速拡散する」という理論が広まっていました。このことで局所施用の必要性を感じていない方が多いのかもしれません。 しかしこの理論は、筆者の複数の現場実測ではなかなか確認できていません。[図2]

▲[図2]炭酸ガスの拡散(筆者実測)
※センサーは発生器から40-60m位置に複数パターン設置。密閉時の循環扇稼働時のみ徐々に拡散は進む。(右上)



同様の傾向を九州沖縄農研でも説明されている[図3]ように、現場の奥行きが50mを超えるようなハウスでは状況が異なるようです。
辛うじて「密閉下で循環扇を使用し、時間をかければ拡散できる」ことが確認されています。しかし少しでも換気が始まるとガスの拡散は大きく乱れ、炭酸ガス発生装置に近い範囲だけが高濃度となりその先の群落の中は外気以下の低濃度になることが確認されます。


▲[図3]炭酸ガス拡散の局所施用と通常施用(直噴)比較<引用:九州沖縄農業研究センター>



有孔ダクトによる炭酸ガスの局所施用は、西日本の産地ではかなり普及が進んできました。
炭酸ガスの局所施用に関して
①ハウスの隅々まで高速拡散
②換気下での高濃度施用
③換気下でも濃度制御
④燃料消費量削減
⑤葉面境界層の除去
など様々な効果がでています。
これ以外にも暖房ダクト(有孔)を炭酸ガス拡散と併用するケースにおいては温度ムラの解消策としても機能しています。

炭酸ガスの局所施用

[図3]の左側はいちごにおける局所施用の濃度分布を表しています。現場の傾向と同様に必要な範囲の炭酸ガス濃度を上げること、短時間の濃度上昇、省エネの確認もされています。

炭酸ガス局所施用の方法は、
①暖房用の有孔ダクト併用[図4]
②専用ダクトファン・専用ダクトの設置
の2種類あります。

▲[図4]暖房機ファンに吸い込み



暖房用の有孔ダクト併用について

暖房用の有孔ダクト1種類のみがハウス内に設置されているため、炭酸ガスをハウスの奥方向へ拡散できます[図5]。さらに温度ムラ解消の調節も容易になり、コスト面・設置作業面でも有利なので筆者も従来は薦めていました。しかし、残念ながら最近は方針転換しました。


▲[図5]有孔ダクトの地面設置


その理由として、まず愛媛大学の報告によると「採光性が良い株上中位部の光合成効率が高い」との結果が出ています。[図6]

群落の上中位葉は、採光性以外に“空気の対流のしやすさ”、“組織の新しさ”も加勢して作物が行う光合成量の大部分担っていることになります。しかし、地面設置の有孔ダクトから放出された炭酸ガス濃度は“低い位置ほど高濃度”に維持されていましたが、前述の稼ぎ頭(上中位葉)の濃度は外気並みに希釈されていたことがわかりました。[図6]


▲[図6]成長点からの距離ごと炭酸ガス固定量 ※曇天日(グラフ左)晴天日(グラフ右)<引用元:愛媛大学>


▲[図7] 作物の高さごとの光合成の働き具合 ※鹿児島スマート事業での測定風景(左)イメージ図(右) 


これは吹き出し部分では1,000ppm以上の濃度があるものの、上部に拡がるにつれて空間全体に希釈され外気並の濃度に低下しているということです。せっかく有効ダクトでハウス内に均一な炭酸ガスの拡散ができても、必要な部位に狙った濃度の炭酸ガスが届いていないのは詰めが甘いと云わざるを得ません。

そこで、“炭酸ガス用の有孔ダクトは暖房用と区別する”または“併用しても中空に設置する”ことで、群落の中上位葉の炭酸ガス濃度を高く保つことが可能となります。[図8]
[図8]は親ダクト400mm幅に対して子ダクト200mm幅を接続し、ダクト内にエスター線を入れて5m置きに梁でエスター線を吊っている例です。ダクト先端をエスター線とともにパッカー留めし、さらにエスター線の途中吊り紐はピーマンの吊り糸のように高さ調節ができる留め方にすれば、生育に応じた高さ調節が可能です。この方法で吹き出し口と作物、炭酸ガス濃度計測位置(群落内)を狭い範囲にすることで換気期間中でも高濃度施用が可能となります。(吹き出しガスを直接計測しないよう配置に注意が必要です。)


▲[図8]換気下での中空ダクトによる炭酸ガス施用


低コストで炭酸ガスの濃縮を上げる方法

一般の炭酸ガス発生機から噴き出す濃度は2,000ppm前後のようです。「高すぎ!」と思われる方も多いと思いますが、ダクト孔から噴き出された瞬間、周辺の空気に希釈されて一気に低濃度になります。ダクトで局所施用を行う場合は、高濃度の炭酸ガスを送り込むことで換気期間中でも高濃度の設定が可能となります。従来液化炭酸ガスで局所処理する方法もありましたが、ランニングコストの問題から局所施用でも外気並み(400ppm)の設定ができる程度でした。

九州沖縄農研より報告された灯油燃焼タイプの炭酸ガス簡易濃縮技術[図9]については、明らかに低コストで効果的に作物周辺の炭酸ガス濃度を上げることが可能です。炭酸ガスは発生装置から放出されアルミダクトを介して濃縮タンク(容器)に入り、タンクの吹き出し孔から放出したガスをダクトファンで吸引し、作物へ施用します。タンク放出ガスの一部は炭酸ガス発生装置が再度吸引し、外気と混合・燃焼し濃縮されます。


▲[図9]炭酸ガス濃縮のしくみと濃度<引用:九州沖縄農業研究センター>



従来の単純燃焼の吹き出し濃度が2,000ppm前後であるのに対し、再循環燃焼の場合の吹き出し濃度は5,000ppm、ダクトファンの吸込み口濃度は3,500ppmが確認されています。つまり従来の1.7倍濃度の局所ガス施用を行うことになります。前述の中空設置の有孔ダクト(いちごは条間設置)と併用することで換気期間中(つまり強日射期間中)の効果的な高濃度処理が実現できます。




夏秋栽培、単棟ハウス等でのダクト外気導入例


夏秋トマト、アスパラガス、ホウレンソウなど、環境制御とは少し縁が遠いように思われがちな品目について、必要範囲の環境制御が始まっています。
①日射比例潅水:気孔を開き、蒸散による熱ストレスを回避、日中の光合成も維持する目的
②遮光自動制御:強日射を避けて光飽和を回避、過剰高温による呼吸消耗も抑制
③外気ダクト導入:外気CO₂の連続補給、対流によるガス交換促進、ハウス内高温空気の放出


あらゆる作物栽培の基本となる「潅水」と、高温期ならではの「遮光」・「送風」によって日中の高温ストレス損失を最小限にする取り組みが効果を現しています。

圃場の排水対策や日射比例潅水を行うことで、植物の気孔を開くことができます。気孔が開いていなければ、炭酸ガス(CO₂)を吸収することができません。しかし、それでも効果を感じられないという方は、ぜひ本記事でお伝えした炭酸ガスの施用方法や発生装置の設置方法などの見直しを検討してみてください。






【執筆】
アグリアドバイザー 深田正博

熊本県野菜専門技術員・普及指導員の経験があり、現在は株式会社ニッポーのアグリアドバイザーとして現場目線の栽培指導やセミナーの講演を行う。




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